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東京地方裁判所 平成5年(ワ)20931号 判決 1997年8月01日

原告

平彰彦

外二名

右原告ら訴訟代理人弁護士

水口洋介

橋本佳子

安川幸雄

被告

株式会社ほるぷ

右代表者代表取締役

大薮誠二

右訴訟代理人弁護士

原後山治

三宅弘

近藤卓史

長沢美智子

髙英毅

杉山真一

主文

一  被告は、原告平彰彦に対し、金二三万七九五一円及びこれに対する平成五年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告薄雅則に対し、金五万七七〇一円及びこれに対する平成五年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告小峰賢治に対し、金一二万五五八四円及びこれに対する平成五年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告平彰彦(以下、原告平という)に対し、金二六万一〇九五円及びこれに対する平成五年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告薄雅則(以下、原告薄という)に対し、金六万二〇二八円及びこれに対する平成五年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告小峰賢治(以下、原告小峰という)に対し、金一五万九八二五円及びこれに対する平成五年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

被告の従業員である原告らが、時間外及び休日労働(労働基準法〔以下、労基法という〕で定める法定労働時間を超える労働や法定休日〔労基法上の休日〕における労働のみではなく、就業規則で定める所定労働時間を超えて法定労働時間内の労働、就業規則等で定める休日で法定休日以外の日の労働をも含む、以下同じ)に従事したとして、当該賃金(以下、時間外及び休日手当という)を請求している事案である(なお、原告薄が四万一四六〇円、同小峰が一五万七七〇三円の予備的請求の趣旨を提出しているが、訴訟物は同一で、単に計算方法が異なるに過ぎないから、予備的な計算方法に基づく金額を明示したに過ぎないものと解される)。

一  争いのない事実

1  被告は、書籍等の訪問販売を主たる業務とする従業員約五〇〇人の株式会社であり、原告平は営業社員(社員資格四級)、原告薄及び同小峰はプロモーター社員として、被告に勤務する従業員である。

2  被告の就業規則には、労働時間について、「第三一条(拘束時間及び労働時間)従業員の拘束時間は、平日八時間、土曜日六時間とし、一週四六時間以内とする。②従業員の労働時間は、平日六時間四五分、土曜日五時間とし、一週三八時間四五分以内とする。」「第三二条(始業及び終業の時刻)始業九時、終業平日は一七時、土曜日は一五時」との記載がある。

3  被告は、賃金について給与規定に定めており、原告平の給与は、年令給、資格給、地域手当、職務手当、住宅手当、業績手当等の項目により、原告薄及び同小峰の給与は、年令給、勤続手当、地域手当、歩合給等の項目により、それぞれ定められている。なお、右各給与項目の具体的金額は、別紙賃金一覧表1ないし3の各項目欄に記載のとおりである。

4  被告は、三級以下の社員に適用される給与規定(以下、三級以下給与規定という)一九条三項及び四級以上の社員に適用される給与規定(社員四級以上)(以下、四級以上給与規定という)二二条四項に、労働時間が八時間を超過した時間及び休日出勤したときは、時間給の三割増の賃金を支給する旨を定めている。また、三級以下給与規定一九条五項には「時間外勤務手当、休日勤務手当の計算の基礎となる時間給は次のとおりとする。(年令給+勤続手当+職能資格手当+地域手当+事務主任手当+住宅手当)÷一四八時間」、四級以上給与規定二二条六項には「時間外勤務手当、休日勤務手当の計算基礎となる時間給は次のとおりとする。(年令給+資格給+業績手当+地域手当+住宅手当)÷一四八時間」との規定が存する。

二  争点

1  原告平が労基法四一条二号の管理監督者の地位にあたるか

2  原告薄及び同小峰について、展覧会の会場での労働が、事業場外みなし労働時間制の適用の対象となるか

3  原告らについて、適法な休日振替がなされているか

4  原告平及び同薄について、展覧会以外の土曜休日労働につき、被告がその指示を出したか

5  原告小峰のほるぷ会出席が業務によるものか

三  当事者の主張

(原告らの主張)

1(一) 被告の給与規定及び労基法によれば、時間外及び休日手当の基礎となる時間給(但し割増前のもの)は、原告平については、(年令給+資格給+地域手当+職務手当〔主任手当〕+住宅手当+業績手当)÷一四八時間であり(給与合計額を月間の労働時間で除した金額)、原告薄及び同小峰については、(年令給+勤続手当+地域手当+歩合給)÷一四八時間である。なお、月間の労働時間については、三級以下給与規定一九条五項、四級以上給与規定二二条六項により一四八時間と規定されている。

(二) 各原告は、別紙賃金一覧表一1ないし3の「年月日」欄の記載日に「勤務内容」欄記載のとおり(原告小峰について土曜展覧会とあるのは土曜休日展覧会のことである)、時間外及び休日労働に従事した。同表の「時間外時間」欄の「原告計算」欄における「所内」欄記載の時間数は、就業規則で定める所定労働時間を超えて法定労働時間以内の労働(本件では原則として六時間四五分を超えて八時間以下)又は就業規則等で定める休日で法定休日以外の日の労働(以下、これらを法内残業という)における時間数であり、「所外」欄記載の時間数は、法定労働時間を超える労働(本件では原則として八時間を超えた場合)又は法定休日における労働(以下、これらを法外残業という)における時間数である。そして、各原告の法内残業の賃金額は、同表「原告請求」欄の「給与」欄のうち「給計」欄記載の金額を、前項記載の一四八時間で除した金額である「時給」欄記載の金額に、「時間外時間」欄の「原告計算」欄における「所内」欄記載の時間数を乗じた金額、すなわち「原告請求」欄の「請求額」欄のうち「所内」欄記載のとおりの金額(以下、法内賃金ともいう)である。また、各原告の法外残業の割増賃金は、争いのない事実4記載のとおり時間給の三割増の割増賃金が支払われるべきものであるから、「時給」欄に一・三を乗じ、さらに「時間外時間」欄の「原告計算」欄における「所外」欄記載の時間数を乗じた金額、すなわち、「原告請求」欄の「請求額」欄のうち「割増」欄記載のとおりの金額(以下、法外賃金ともいう)である。法内賃金及び法外賃金の合計額は「原告請求」欄の「請求額」欄のうち「計」欄記載のとおりであり、その総合計は、原告平が二六万一〇九五円、同薄が六万二〇二八円、同小峰が一五万九八二五円である(なお、原告薄及び同小峰については第一次的な計算方法に基づく請求額)。

2 原告薄及び同小峰は、時間外及び休日手当について、右1に基づく計算方法が認められない場合には、次の計算方法に基づきこれを主張する。すなわち、前項では月間労働時間を三級以下給与規定により一四八時間として計算したが、これが認められないとすると、労働基準法施行規則(以下、労基法施行規則という)一九条一項六号により、時間外及び休日手当を請求する当該各月の総労働時間数を算出し、これを基礎として計算した金額を二次的に請求する。具体的には、原告薄及び同小峰の時間外及び休日手当を請求する当該各月の総労働時間は、別紙総実労働時間認否書の「原告計算」欄記載のとおりであり、これに基づき計算すると、原告薄及び同小峰の法内賃金は、別紙賃金一覧表二1及び2「原告計算」欄の「給与」欄のうち「給計」欄記載の金額(歩合級を含む四項目の合計)を、当該月の総労働時間数で除した金額である「時給」欄記載の金額に、「時間外時間」欄の「原告計算」欄における「所内」欄記載の時間数を乗じた金額、すなわち「原告請求」欄の「請求額」欄のうち「所内」欄記載のとおりの金額であり、法外賃金は、「時給」欄に一・三を乗じ、さらに「時間外時間」欄の「原告計算」欄における「所外」欄記載の時間数を乗じた金額、すなわち、「原告請求」欄の「請求額」欄のうち「割増」欄記載のとおりの金額である。法内賃金及び法外賃金の合計額は「原告請求」欄の「請求額」欄のうち「計」欄記載のとおりであり、その総合計は、原告薄が四万一四六〇円、同小峰が一五万七七〇三円である(原告薄及び同小峰についての第二次的な計算方法に基づく請求額)。

3 争点1について

(一) 四級以上給与規定一条によれば、「特に定める場合」を除き、同規定二二条に定める時間外及び休日手当に関する規定が適用されることになっているが、別に何ら特別の定めはないから、原告平には右規定が適用され、前述の時間外及び休日手当の支給がなされるべきである。

(二) 被告は、原告平が労基法四一条二号の管理監督者に該当する旨の主張をするが、原告平は販売主任であって規定上も「指導職」であり「管理監督職」とは異なること、東京南支店における売上集計等は事務作業であり、原告平以外に吉田及び佐藤課長も行っていたこと、同支店におけるタイムカードの管理については新入社員について一時期押印していた以外には行っていないこと、支店長会議への出席は単なる営業会議への出席に過ぎないこと、給与も支店長に比較して少ないこと等から、管理監督者に該当しないことは明らかである。

4 争点2について

(一) プロモーター社員に関する就業規則三二条二項但書の「事務所外勤務のため、前項の終業時刻を越えた場合、通常の労働時間勤務したものとみなす」との規定は、展示会での販売については、労基法三八条の二の「労働時間を算定し難いとき」との要件に該当せず、無効であるから、前述のとおり、時間外手当を請求できる。

(二) 展覧会での販売業務は、被告の指揮監督のもと、顧客との対応、契約の締結、その結果の整理、鑑賞券の通行人への配付等が行われており、開催時間も決まっていること、支店長等の現場責任者が展覧会場へ赴いているうえ、グループ(展覧会場で勤務している従業員相互)により労働時間も管理されていること、展覧会中のほとんどの時間が実作業時間であり、その間の時間は手待時間であることから、労基法三八条の二の「労働時間を算定し難いとき」には該当しない。

(三) 展覧会での販売業務への参加が強制されていないとの被告の主張は、労基法三八条の二の要件とは直接には関係しない。また、そもそも展覧会での販売業務は被告の積極的な参加の呼びかけによってプロモーター社員が参加して販売活動に従事しており、自発的な自由参加であるということは全くない。

5 争点3について

(一) 被告は、休日振替制を採用しており、休日に実施する展覧会販売については、「業務上やむをえない場合」として休日振替がなされており、休日手当を支給すべき場合にはあたらない旨を主張する。しかしながら、振替休日は、就業規則等に定めがあることを前提として、事前にかつ振り替える日を指定して振替を実施しなければならないが、右取扱いはなされていない。

(二) 原告薄の平成四年三月二九日の特販支援については、仮に被告主張の研修であったとしても、被告の業務に従事していたことは明らかであり、事前の休日振替の実施もないから、休日手当が支給されるべきものである。

6 争点4について

被告は、原告平及び同薄について、展覧会以外の土曜休日に出勤するように指示命令した事実はないので、賃金を支給する必要はない旨を主張する。しかしながら、ノルマを達成しないと休みにくい状況にあり、被告から出勤しないようにとの指導もなく、平日では顧客の関係や業務の都合で対応できない営業活動や事務処理を行う必要からも出勤の必要があり、被告から少なくとも黙示の指示があったものであるから、賃金が支払われるべきである。

7 争点5について

原告小峰は、平成四年一〇月一〇日(土曜日/休日)のほるぷ会総会への出席のための佐渡への出張について、被告の業務であるとして法内残業時間の五時間の賃金を請求しているところ、被告はほるぷ会が親睦団体であり被告の組織上の団体ではないから、右総会への出席が業務ではない旨主張している。しかしながら、ほるぷ会総会は被告の事業に密接に関連しており、これへの出席は業務の一環として実施され、これに出席することは業務そのものである。すなわち、総会の開催費用は給料から天引きされており、事務局は支店長の指揮のもとに被告の従業員が事務を担当し、入会の可否も被告が決定権をもち、総会では被告の営業責任者が販売促進に向けた講演を行っている等の事情を考慮すれは、ほるぷ会総会への出席が業務であることは明らかである。

(被告の主張)

1(一) 原告の主張1(一)は否認する。原告平は、管理監督者であるから時間外及び休日手当を受ける資格を有しないうえ、四級以上給与規定二二条六項によれば、その基礎となる給与に職務手当(主任手当)は含まれていない。また、原告薄及び同小峰は、プロモーター社員であるから主張の時間外及び休日手当を受けることができない(後述)うえ、三級以下給与規定一九条五項によれば、その基礎となる給与に歩合給は含まれていない。

(二) 原告らの主張1(二)は争う。但し、仮に原告らに時間外及び休日手当が支給されるべきものであるとすると、原告ら主張の別紙賃金一覧表一1ないし3の法内残業時間数及び法外残業時間数に関する認否は、同表の「認否」欄記載のとおりである(なお、「認」は原告ら主張の労働時間数を認めるものであり、「修正」は原告ら主張の労働時間数の一部を同表「会社計算欄」記載の範囲で認めるものであり、「否」は否認するものである。)。なお、右に基づく計算によると、同表「会社試算」欄の「計」欄記載のとおり、時間外及び休日手当が発生するに過ぎない(原告平〔同表一1〕の「会社試算」欄中「給計」欄は職務手当を除いたものであり、原告薄及び同小峰〔同表一2及び3〕の「会社試算」欄中「給計」欄は歩合給を除いたものである)。

2 原告らの主張2は争う。但し仮に原告薄及び同小峰に時間外及び休日手当が支給されるべきものであるとすると、原告薄及び同小峰が主張する当該各月の総実労働時間数については、別紙総実労働時間認否書の「認否」欄記載のとおり認否し、別紙賃金一覧表二1及び2の法内残業時間数及び法外残業時間数に関する認否は、同表の「認否」欄記載のとおりである。なお、右に基づく計算によると、同表「会社試算」欄の「計」欄記載のとおり、時間外及び休日手当が発生するに過ぎない(「会社試算」欄中「給計」欄は歩合給を除いたものである)。

3 争点1について

原告平は、労基法四一条二号の管理監督者に該当し、労基法三七条の適用を受けないうえ、就業規則の適用に関しては四級以上給与規定一条の「特に定める場合」に該当するため、同規定二二条に定める時間外及び休日手当に関する規定の適用を除外されており、時間外及び休日手当を請求できない。

(一) 原告平は、幹部営業社員として採用され、小田原営業所長及び藤沢営業所長等を経て、東京南支店の販売主任となったもので、同支店の唯一の幹部営業社員であった。東京南支店においては、支店長が一か月に数日しか出勤しないため、原告平は、支店長にかわって支店管理の仕事を代行しており、従業員の売上集計管理、支店における会議及び朝礼の取りまとめ、新入社員のタイムカードの管理、通達文書の連絡、首都圏地区支店長会議への出席等を行い、プロモーター社員で販売課長である吉田及び佐藤課長らに命令することもあった。

(二) 被告の規定上においても、原告平の社員資格である四級は、三級以下とは区別され、管理監督職であり、原告平がその地位にある販売主任は、経営の一端を担うものとされていた。

(三) 原告平は、右のとおりの管理監督職であったため、年令給及び資格給が高く(殊にプロモーター社員である原告薄及び同小峰と比べて)、売上高の三パーセントの販売報奨金が足切り措置なく支給されており(一般職であれば売上高八〇万円以下の場合には報奨金がつかない)、販売主任手当も得ていたのであるから、四級以上給与規定一条の「特に定める場合」に該当して同規定二二条に定める時間外及び休日手当に関する規定の適用を除外されている。

4 争点2について

(一) 就業規則三二条二項但書は、プロモーター社員につき「事業所外勤務のため、前項の就業時刻を越えた場合、通常の労働時間勤務したものとみなす」と規定しているところ、プロモーター社員である原告薄及び同小峰には、右規定の適用により、展覧会における展示販売の場合を含めて所定時間外労働は発生しない。また、右展示販売の場合が労基法三八条の二で規定する要件に該当することも明らかである。

(二) 展覧会の会場での販売は、普段訪問販売に従事するプロモーター社員の販売を容易にするために、被告が主催し、同会場での販売を希望する従業員を対象として実施するもので、随時休憩時間をとりながら行うもので、普段は持ち運ぶことが出来ない絵画等を会場に陳列して訪問販売の対象となっている顧客に足を運んでもらう訪問販売の一形態である。展覧会での展示販売の場合にも歩合対象売上高に応じて高額となる歩合給を受けることが予定されており、みなし労働時間制の採用により、時間外労働は、発生しない。

(三) 被告は、展覧会の会場での販売について、プロモーター社員に参加を何ら強制しておらず、現実にもこれに参加していないプロモーター社員が存する。そして、展示販売の時間中は、自由に利用できる休憩時間を増やし、労働時間を増やすことのないように指導しているのであり、休憩時間を制限したこともない。また、支店長等が現場に行っているが、プロモーター社員の実際の個別の販売についてまで具体的な指導監督は及んでいない。

5 争点3について

(一) 被告の就業規則四〇条一項には、「会社の業務の都合上、やむを得ない場合、従業員の一部又は全部について前三七、三八条の休日を他の日と振替えることがある。」と規定しているところ、展覧会での展示販売の場合(但し土曜日が休日の場合及び日曜日の場合)には、「業務の都合上、やむを得ない場合」として休日を振り替えたものであり、休日手当は発生しない。

(二) 被告においては、展覧会終了日の翌日ないし翌々日を休日として振り替えることが慣行として確立していた(例えば土曜展覧会だけの場合には翌週の月曜日、土曜展覧会及び日曜展覧会の場合には翌週の月曜日及び火曜日が振替休日)、したがって、事前に振替休日を特定した指定がなされていたものであるから、休日手当は発生しない。実際にも被告の水戸支店、埼玉支店、長岡支店では展示販売の翌日ないし翌々日が振替休日となっていたし、東京南支店長も同様の取扱いをしていた。また、原告小峰が平成四年六月二〇日の出勤について、事前の同月五日の振替休日をとっているが、これは右慣行が確立しているから、このような取扱いができたものである。

(三) 原告薄主張の平成四年三月二九日の書店(横浜有隣堂西口店)での特販支援については否認する。これは、原告薄の売上が低迷して辞めたい旨の話があったため、売上向上のために神奈川特販営業所へ配転することを予定し、本人の希望によりその研修として書店での展示販売に従事させたものであり、右事情及び本来休日振替で処理されるべきものであったこと等に照らすと権利濫用にあたる。

6 争点4について

(一) 被告は、原告平及び同薄に対し、展覧会以外の土曜休日に出勤するように指示命令した事実はないので賃金を支払う義務はない。

(二) 原告平の土曜休日出勤は、いずれも土曜日にどうしても訪問販売の活動に従事しなければならないものではないし、売上の集計、報告等の作業も土曜休日に行わなければならない事情はなく、被告が原告平にノルマを課したこともないので、被告が土曜休日出勤について、明示の指示はもちろん黙示の指示をしたこともないことは明らかである。

(三) 原告薄の土曜休日出勤は、いずれも土曜日にどうしても訪問販売の活動に従事しなければならないものではないし、被告が原告薄にノルマを課したことはなく、また月次目標を達成しないときでもペナルティーを課したことはない。被告は、原告薄のようなプロモーター社員に対してロス時間をなくし密度の濃い販売活動を行い、短い労働時間で高い販売実績を上げるように求めているのであり、それ以上に土曜休日出勤を求めてはおらず、現実にも原告小峰は全く土曜休日出勤を行っていないことからも、被告が土曜休日出勤について、明示の指示はもちろん黙示の指示をしたこともないことは明らかである。また、被告は、原告薄に対し、平成三年一一月一六日の本社研修会への出席を強制した事実もない。

7 争点5について

原告小峰の所属していた首都圏ほるぷ会は、被告の組織とは関係のない親睦団体であり、この総会への出席は被告の業務にはあたらない。すなわち、被告の安田進(以下、安田という)推進役は参与会員として加入しているに過ぎず、大薮誠二(以下、大薮という)役員は来賓として総会に出席したものであり、総会は会員の親睦のためのもので被告の主催ではなく、総会への出欠も会員の自由で、現実に欠席者も多いのであるから、ほるぷ会総会への出席は業務ではない。したがって、被告は原告小峰に平成四年一〇月一〇日の賃金の支払義務はない。

第三  争点に対する判断

一  争点1について(原告平が労基法四一条二号の管理監督者の地位にあたるか)

1  被告は、原告平が労基法四一条二号の管理監督者に該当し、労基法三七条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)の適用を受けないうえ、就業規則の適用に関しては四級以上給与規定一条の「特に定める場合」に該当するため、二二条に定める時間外及び休日手当に関する規定の適用を除外されているから、時間外及び休日手当の請求ができない旨を主張する。そこで、原告平が労基法四一条二号の管理監督者に該当するか否かを検討する。

2  原告平の地位等については、証拠(甲一〔枝番を含む〕、七、二五ないし二八、乙六、七、一〇、一一、二七、三一〔一部〕、三二〔一部〕、安田証人〔一部〕、原告平)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告平は、昭和五三年四月に営業社員として被告に入社し、昭和五七年九月に資格四級となり、相模原営業所販売課長(資格給及び職務手当合計〔以下、資格給等という〕四万七五〇〇円)、昭和五八年四月に小田原営業所販売課長(資格給等五万円)、昭和五八年四月に小田原営業所長(資格給等五万五〇〇〇円)、昭和五九年四月に藤沢営業所長(資格給等五万六〇〇〇円)、昭和五九年七月に東京支店図書館担当(資格給等五万一〇〇〇円)、昭和六一年二月に東京支店販売主任(資格給等五万二〇〇〇円)、昭和六二年五月に東京南支店(東京支店分割)販売主任(資格給等五万六五〇〇円)、平成四年九月に東京支店(南北支店統合)販売主任(資格給等六万二五〇〇円)となった。なお、昭和五七年九月以降、売上高の三パーセントの報奨金が支払われていた(但し東京支店図書館担当の時期を除く)。

(二) 被告の資格規定(社員四級以上)は、管理監督職、専任職、指導職、一般職を規定し、販売主任は指導職の中に位置して、「販売に関する実務知識、技能と経験を生かして部下の指導育成を行う職種群」とされ、資格四級の営業社員の要件として「担当業務の方針と実施計画を自主的に立案できる、専門的な調査分析と企画・立案ができる、三級以下の者の能力、人柄、適正を把握し、適切に指導教育できる、経営方針に則り管理者としての自覚と旺盛な意欲をもって業務向上に貢献しうること」等を定めている。

(三) 東京南支店は、平成三年から平成四年当時、支店長及び原告平の他に、佐藤課長(プロモーター社員)の下にプロモーター社員が三名、吉田課長(プロモーター社員)の下にプロモーター社員が二名、その他に事務員等が在籍していた。東京南支店長は、平成元年一月から平成二年一二月まで大薮、平成三年一月から平成四年三月まで安田、平成四年四月から同年七月まで上田宗博、同年八月が安田、同年九月以降清水政志であった。大薮は首都圏営業推進役で東京北支店長を兼務していたが原則として東京南支店を拠点としており、安田は平成三年一月から三月は東京南支店にいたが、同年四月以降は兼務していた東京西支店におり、月に数日間東京南支店に出勤していた。

(四) 原告平は、安田が東京南支店に常駐していない時期には、売上集計等を行って安田に報告し、支店内の週間会議の打合せのまとめや月の会議の資料作成等を行い、首都圏地区支店長会議にも出席することがあった。また、支店内の朝礼は、原告平、吉田、佐藤及び沼(プロモーター社員で主任)が交代で行い、原告平が安田からの連絡事項等を伝えていた。

(五) 原告平は、平成三年四月当時在籍していた新入社員の田代潔のタイムカードの確認印を押していたが、吉田、佐藤及び沼等のタイムカードの確認印はそれぞれ各人が押印していた。また、原告平もタイムカードにより勤怠管理を受けていた。

3 労基法四一条二号にいう管理監督者とは、労基法が規制する労働時間、休憩、休日等の枠を超えて活動することが当然とされる程度に、企業経営上重要な職務と責任を有し、現実の勤務形態もその規則になじまないような立場にある者を言い、その判断にあたっては、経営方針の決定に参画し、あるいは労務管理上の指揮権限を有する等経営者と一体的な立場にあり、出退勤について厳格な規則を受けずに自己の勤務時間について自由裁量を有する地位にあるか否か等を具体的勤務実態に即して検討すべきものである。

これを本件についてみるに、前記一2で認定のとおり、原告平は、資格四級で(経営方針に則り管理者としての自覚と旺盛な意欲をもって業務向上に貢献しうること等が右資格要件として定められている)、過去に営業所長を経験して足切り措置なく販売報奨金の支給を受け、東京南支店では支店長が常駐していなかったために、売上集計や支店内会議の資料の作成等を行い、朝礼において支店長からの指示事項を伝え、首都圏地区支店長会議に出席することもあり、新入社員のタイムカードに確認印を押していたことが認められる。しかしながら、前記一2で認定のとおり、原告平は、タイムカードにより厳格な勤怠管理を受けており、自己の勤務時間について自由裁量を有していなかった。また、前記一2で認定のとおり、東京南支店の吉田課長、佐藤課長及び沼主任らのタイムカードの確認印はそれぞれ各人が押印しており、原告平が勤怠管理を行っていたものではないこと、原告平が売上集計や支店長不在時の会議の取りまとめ、支店長会議への出席あるいは朝礼時に支店長からの指示事項を伝えることはあっても、支店営業方針を決定する権限や、具体的な支店の販売計画等に関して独自に佐藤課長及び吉田課長に対して指揮命令を行う権限をもっていたと認めるに足りる証拠はないことから、原告平が被告の経営方針の決定に参画する立場になかったことはもちろん、労務管理上の指揮権限を有する等経営者と一体的な立場にあったものとも認められない(なお、被告は、原告平が足切り措置なく報奨金の支給を受けている点、過去に営業所長であった点を指摘するが、小田原営業所の販売課長であったときに労基法上の管理監督者であったと認めるに足りる証拠はないところ、前記一2で認定のとおり、右時期も足切り措置なく報奨金の支給を受けていたし、小田原営業所販売課長から小田原営業所長になったときに資格給は五〇〇〇円しか増加していない点等を考慮すると右営業所長が労基法上の管理監督者にあたるか自体にも疑問がある)。

4  したがって、原告平が管理監督者であるから時間外及び休日手当を請求できる地位にない旨の被告の主張は理由がない。

二  争点2について(原告薄及び同小峰の展覧会の会場での労働に事業場外みなし労働時間制の適用があるか)

1  被告は、就業規則三二条二項但書が、プロモーター社員につき「事業所外勤務のため、前項の終業時刻を越えた場合、通常の労働時間勤務したものとみなす」と規定しているので、プロモーター社員である原告薄及び同小峰には、展覧会における展示販売の場合の所定時間外労働は発生しない旨を主張する。そこで、右展示販売が労基法三八条の二で規定する要件に該当するか否かを検討する。

2  展覧会における展示販売の状況等については、証拠(甲一一の1ないし7、一二ないし二三、乙一五、一六、三一〔一部〕、安田証人〔一部〕、原告平、原告小峰)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告の本社又は各支店は、年間に数回程度、画廊やホテル等の特定の会場を設けて絵画の展覧会を行い(会場の開閉時間は定められている)、右会場内でプロモーター社員らにより、絵画の展示販売を行っている。

(二) 展覧会における展示販売は、プロモーター社員らの通常の販売活動をより容易にして売上を増加させること、そして被告の売上を増加させることを目的としており、被告の業務として行われている。被告は、展覧会の展示販売を行うに際し、プロモーター社員に参加するように働き掛けるものの、参加を強制することはなく、参加しないことによりペナルティーを課すことはない。

(三) 被告は、展覧会の企画の段階で、売上目標、販売人数、顧客の予想等を具体的に立案し、プロモーター社員らが顧客に招待状や案内状を送って集客に努めるように推進している。また、被告の支店長等は、現場責任者として展覧会の会場に赴いている。

(四) プロモーター社員は、展覧会での展示販売に参加する場合、会場内で顧客の対応をするため、原則として会場を離れることはなかった。

3 労基法三八条の二は、事業場外で業務に従事した場合に労働時間を算定し難いときは所定労働時間労働したものとみなす旨を規定しているところ、本来使用者には労働時間の把握算定義務があるが、事業場の外で労働する場合にはその労働の特殊性から、すべての場合について、このような義務を認めることは困難を強いる結果になることから、みなし規定による労働時間の算定が規定されているものである。したがって、本条の規定の適用を受けるのは労働時間の算定が困難な場合に限られるところ、本件における展覧会での展示販売は、前記二2で認定のとおり、業務に従事する場所及び時間が限定されており、被告の支店長等も業務場所に赴いているうえ、会場内での勤務は顧客への対応以外の時間も顧客の来訪に備えて待機しているもので休憩時間とは認められないこと等から、被告がプロモーター社員らの労働時間を算定することが困難な場合とは到底言うことができず、労基法三八条の二の事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合でないことは明らかである(したがって、就業規則三二条二項但書のプロモーター社員について、事業場外での業務について、通常の労働時間勤務したものとみなす旨の規定は、労働時間の算定が困難な場合に限っての規定と限定して解釈する限りにおいて有効と認められる)。なお、被告はプロモーター社員が展覧会での展示販売へ参加するか否かは自由であり、また展示販売の時間中は自由に利用できる休憩時間を増やし、労働時間を増やすことのないように指導していると主張するが、展示販売は被告の業務として行われているものであるし、プロモーター社員が展示販売業務に従事しているか否かを把握して労働時間を算定することは、右のとおり本来容易に出来ることであるから、この点に関する被告の主張は理由がない。

4  したがって、原告薄及び同小峰には事業場外みなし労働時間制の適用により、展覧会における展示販売の場合の所定時間外労働は発生しない旨の被告の主張は理由がない。

三  争点3について(原告らについて適法な休日振替がなされているか)

1  被告は、就業規則四〇条一項に「会社は業務の都合上、やむを得ない場合、従業員の一部又は全部について全三七、三八条の休日を他の日と振替えることがある。休日を振替える場合は、事前に代休日〔振替休日の意味〕を指定する」と規定しているところ、休日展覧会(土曜日が休日〔法定休日の趣旨ではない〕の場合及び日曜日の場合、以下同じ)での展示販売の場合は、業務の都合上やむを得ない場合として休日を振り替えたものであり、被告においては、休日展覧会終了日の翌日ないし翌々日を休日として振り替えることが慣行として確立していたから、原告らが休日手当(但し法定休日以外で所定内労働時間部分については法内賃金)を請求することはできない旨を主張する。

就業規則において休日を特定したとしても、別に休日の振替を必要とする場合に休日を振り替えることができる旨の就業規則等を設け、これによって休日を振り替える前にあらかじめ振り替えるべき日を特定して振り替えた場合は、当該休日は労働日となるので休日に労働させたことにはならないものと認められるところ(休日に労働させた後に勤務を要しない代休を与えたとしても休日振替がなされたものとは認められない)、被告は就業規則四〇条一項で休日振替について規定している(乙一)。そこで、①被告には休日展覧会における展示販売の場合に展覧会終了日の翌日ないし翌々日を休日として振り替える旨の慣行が存したか否か、②原告らが休日展覧会での展示販売に従事した各休日につき、個々的に休日振替がなされたか否かについて検討する。

2  被告は、休日展覧会における展示販売の場合に展覧会終了日の翌日ないし翌々日を休日として振り替える旨の慣行が存した旨の主張をするところ、被告の水戸支店、埼玉支店及び長岡支店においては、右のとおり休日振替を行う旨の取扱いについて被告と当該事業所の従業員との間で合意(少なくとも黙示の合意)が存したと窺われる(乙三八ないし四二)ものの、原告平が所属していた東京南支店並びに原告薄及び同小峰が所属していた東京西営業所においては、休日展覧会での展示販売が行われた場合に、展覧会終了日の翌日ないし翌々日も現実には原告らが出勤している場合がほとんどである(甲一ないし三〔枝番を含む〕)こと等を考慮すると、右慣行の存在を述べる安田証人の証言及び陳述書(乙三一)の記載は採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。なお、被告は、原告小峰が平成四年六月二〇日の休日に代わって六月五日に事前に休んでいることをもって右慣行の存在を推認するものであると主張するが、後述のとおり、これはまさに事前に休日の振替が個別的になされた場合であり、東京南支店及び東京西営業所の前記認定の状況を考慮すれば、これをもって右慣行が存したものと言うことはできない。

3  被告は、原告平の平成三年四月一四日の休日展覧会での勤務に関し、同月一六日に有給休暇をとっているが、本来事前に休日振替を行うべきところ、これをしないであえて有給休暇をとったのであるから休日手当を請求できない旨の主張をするところ、前記認定のとおり慣行の存在は認められず、事前に休日振替がなされたことを認めるに足りる証拠もないから、この点に関する被告の主張は理由がない。また、原告平の平成四年五月一〇日の休日展覧会での勤務に関し、同月一四日に休日振替が行われたので休日手当を請求できない旨の被告の主張についても、前記認定のとおり慣行の存在は認められず、事前に休日振替がなされたことを認めるに足りる証拠もないから、この点に関する被告の主張は理由がないが、同月一四日に代休をとっているので、同月一〇日の六時間三〇分の労働時間について、割増部分である時間給の三割のみを請求できると解される(平成四年五月一〇日は法定休日)。また、原告平の他の休日展覧会での勤務に関しても、事前に休日振替がなされたと認めるに足りる証拠はない。

4  被告は、原告薄が①平成三年七月一四日の休日展覧会での勤務と②平成四年三月二九日の書店での展示販売の研修における休日出勤について、振替休日をとっていないことは、前記慣行を徒過して自らの権利を放棄したもので休日手当を請求できない旨の主張をするところ、前記認定のとおり慣行の存在は認められず、事前に休日振替がなされたことを認めるに足りる証拠もないから、この点に関する被告の主張は理由がない(なお、②について、本人の希望で研修したものであり権利濫用であるとの被告の主張についても、被告の指揮監督下で業務として行われたものであり、右慣行の存在も認められないので理由がない)。また、原告薄の他の休日展覧会での勤務に関しても、事前に休日振替がなされたと認めるに足りる証拠はない。

5  被告は、原告小峰の①平成三年六月二三日の休日展覧会での勤務に関して同年七月二日に、②同年七月一四日について同月一五日に、③平成四年五月一〇日について同月一五日に、④平成四年六月二〇日について同月五日に、⑤平成四年六月二一日について同月二三日に、それぞれ事前に休日振替が行われた旨を主張する。しかしながら、前記認定のとおり慣行の存在は認められず、①ないし③及び⑤については事前に休日振替がなされたことを認めるに足りる証拠はないから、この点に関する被告の主張は理由がない(もっとも、いずれの日についても代休がとられているが、右各勤務日の労働時間については現実に勤務した労働時間ではなく、所定労働時間である六時間四五分以上を減じて請求しているので、右各日の休日手当の請求には理由がある)。④については、事前に休日振替がなされたものと認められる(甲二の5、原告小峰)から、この点に関する被告の主張は理由がある。また、原告小峰の他の休日展覧会での勤務に関しては、事前に休日振替がなされたと認めるに足りる証拠はない。

6  したがって、休日展覧会における展示販売の場合には、休日振替により原告らには休日手当が発生しない旨の主張は、原告小峰の平成四年六月二〇日については理由があるが、その余の被告の主張は理由がない。但し原告平の平成四年五月一〇日分の請求については、割増部分である時間給の三割の範囲で理由がある。

四  争点4について(原告平及び同薄について、展覧会以外の土曜休日労働につき、被告がその指示を出したか)

1  被告は、原告平について、土曜休日出勤を指示・命令した事実はないので時間外及び休日手当(但し法定休日ではないので法定労働時間までは法内賃金)を支給する義務はない旨主張するので検討する。

原告平の土曜休日の勤務内容(但し展覧会を除く)は、証拠(甲四、八、原告平)によれば、①平成三年二月二三日が成城中・高等学校及び早稲田高等学校での販売業務、同年三月二三日が日本橋図書館及び京橋図書館での販売業務、同年三月三〇日が成城中・高等学校及び早稲田高等学校での販売業務、同年四月二七日が北山伏保育園での販売業務、同年六月二九日が京橋図書館での販売業務、同年七月六日が日本橋図書館及び京橋図書館での販売業務、平成四年七月二五日が西新宿保育園及び角筈図書館での販売業務、同年一〇月三一日が新宿区立中央図書館での販売業務、同年一二月二六日が上野富衛及び高田馬場第二保育園での販売業務と、それぞれの日に被告東京南支店における内勤業務に従事し、②平成三年七月一三日及び平成四年五月三〇日には内勤業務と顧客への手紙の作成発送等の業務に従事し、また平成四年五月三〇日には月末の最終報告を作成して被告の本社に報告し、③平成三年一一月一六日には被告主催の販売研修会へ参加し、④平成四年五月二三日には当日夜に計画されていた販売促進のための「保育園父母の会西品川ブロック・こどもの本講演会」の準備作業に従事した。

右③及び④については、いずれもその勤務内容によれば、被告の明示の指示により土曜休日出勤を行ったものと認められる(甲四、八、原告平)から、この点に関する被告の主張は理由がない。また、右①については原告平の通常の勤務日のみでは訪問販売業務の全部を処理することが不可能な状況にあるために行われた業務であり、右②については通常の勤務日のみでは処理できない顧客への手紙等の発送や月末の売上に関する報告等の業務に従事したものであり、右①②のいずれについても、タイムカードによって被告に管理され、被告において原告平がこれらの業務に従事していることを充分に認識しながら、これらの業務を中止するように指示を出すこともなかったのであるから、少なくとも被告による黙示の指示によって土曜休日出勤がなされていたものと認められ(甲一〔枝番含む〕、四、八、原告平、弁論の全趣旨)、この点に関する被告の主張も理由がない。

2  被告は、原告薄について、土曜休日出勤を指示・命令した事実はないので時間外及び休日手当(但し法定休日ではないので法定労働時間までは法内賃金)を支給する義務はない旨主張するので検討する。

原告薄の土曜休日の勤務内容(但し展覧会を除く)は、証拠(甲六、一〇、原告薄)によれば、①平成三年五月一八日、六月二二日、六月二九日、七月二七日、一〇月二六日、一一月九日が、いずれも田無市図書館、小金井北高等学校、小金井工業高等学校、府中高等学校等での販売業務に従事し、②平成三年一一月一六日には、被告本社での研修に参加した。

右②については、その勤務内容によれば、被告の指示により土曜休日出勤を行ったものと認められる(甲六、一〇、原告薄)から、この点に関する被告の主張は理由がない(参加を強制したものではないとしても業務の一環であることは明らかであり、労働時間に算入されるべきものである)。また、右①については、原告薄はプロモーター社員であるところ、同じプロモーター社員である原告小峰は訪問販売のための土曜休日出勤はしていないこと、原告薄にノルマは存しなかったこと、売上目標に達しないことで被告がペナルティーを課すことはなかったことが認められる(甲二〔枝番含む〕、原告薄)ものの、現実には月間の売上目標に達しないと休みをとりにくい風潮にあり、登坂支店長のころ(平成二年ころ)には売上が悪いのに休みをとるのかとの趣旨のことを言われたことがある他、これらの業務は原告薄の通常の勤務日のみでは訪問販売業務の全部を処理することが不可能であるために土曜休日に行われた業務と認められ(原告薄)、タイムカードによって被告に管理され、被告において原告薄がこれらの業務に従事していることを充分に認識しながら、これらの業務を中止するように指示を出すこともなかったのであるから、少なくとも被告による黙示の指示によって土曜休日出勤がなされていたものと認められ(甲三〔枝番含む〕、六、一〇、原告薄、弁論の全趣旨)、この点に関する被告の主張も理由がない。

3  したがって、原告平及び同薄について、土曜休日出勤を指示・命令した事実はないので時間外及び休日手当を支給する義務はない旨の被告の主張は理由がない。

五  争点5について(原告小峰のほるぷ会出席が業務によるものか)

1  原告小峰は、平成四年一〇月一〇日に、佐渡で開催された首都圏ほるぷ会総会へ出席し、これに関して土曜休日に業務を行ったものであるとして賃金請求をしているところ、被告は、右首都圏ほるぷ会総会への出席は業務ではないので、賃金支払義務はない旨主張するので判断する。

2  証拠(甲五、二九、三〇、乙一八ないし二二、三一、安田証人、原告小峰)及び弁論の全趣旨によれば、首都圏ほるぷ会は一定の売上成績を有するプロモーター社員の会員によって構成されていること、会員になるためには被告の表彰規定に基づく売上実績が必要でその入会決定も被告が行うしくみになっていること、会員になると売上に応じて会員手当が支給され、被告の入社案内のパンフレットにも右手当が給与の一部として記載されていること、事務局の実際の仕事は被告の支店長(会員ではない)が行い、その指示のもとに被告支店の従業員(会員ではない)が宿泊等の手配を行っていること、総会の開催費用は給与天引きによって毎月積み立てられる会員の会費と参加一時金によって賄われること、総会には被告の役員が出席し、営業責任者が講演を行っていること等が認められ、首都圏ほるぷ会自体が被告におけるプロモーター社員の販売促進をも目的としてつくられた被告の業務に関連する団体であるものと認められる。しかしながら、平成四年一〇月一〇日の首都圏ほるぷ会の佐渡における総会への参加については会員の自由参加であり、現実にも六〇人程度の会員のうち一五人程度は欠席であったこと、参加費用は個人負担であり、総会前後の平成四年一〇月九日と一〇月一一日は全て移動と観光に費やされていること、そして総会当日の一〇月一〇日の日程をみても観光等に費やす時間が大部分であり、総会自体は午後三時三〇分から六時までの二時間三〇分であるうえ、総会の内容に役員の挨拶や被告の営業担当者による講演があるものの、これをもって総会自体が被告による研修等の業務とまでは認めがたいこと等(なお、首都圏ほるぷ会の会則上は会員の親睦を図ることを目的としており、会長等の役員はプロモーター社員である会員から選出され、ほるぷ会の会員へ売上実績で支給される手当は賃金規定ではなく表彰規定に基づくものである)を考慮すると、原告小峰の首都圏ほるぷ会総会への出席が業務とは認められないから、この点に関する原告小峰の賃金請求は理由がない。

六  原告平の請求について

1  被告は、原告平に対し、法内残業時間(所定労働時間を超えて法定労働時間内のもの又は法定休日以外の休日の法定労働時間内のもの)については、通常の労働時間の賃金を、法外残業時間(法定労働時間を超えるもの又は法定休日におけるもの)については、右賃金の三割増(四級以上給与規定二二条四項〔乙三〕)の割増賃金を支払う義務があるところ、右の一時間当たりの賃金額(但し割増前のもの、以下、時間給ともいう)を検討する。

右時間給計算の基礎となる一か月の原告平の給与額について、年令給、資格給、業績手当、地域手当及び住宅手当がこれに含まれることについては当事者間に争いがないが、被告は、これに職務手当が含まれない旨を主張するので判断する。四級以上給与規定二二条六項〔乙三〕は時間給の計算方法について、職務手当を除く右五項目の給与額の合計を基礎とする旨を定めている。しかしながら、職務手当は、労基法三七条二項及び労基法施行規則二一条で定められた割増賃金の基礎となる賃金から除外することが許されている賃金に含まれないことは明らかであるから、職務手当も右計算の基礎として加算すべきものである(なお、右法令の趣旨を考慮すれば、法内残業に関する賃金算定の場合の基礎金額(割増をしないもの)についても、同様の方法で算定されると解される)。したがって、時間給は、一か月の年令給、資格給、業績手当、地域手当、住宅手当及び職務手当の合計額を一か月の所定労働時間である一四八時間(四級以上給与規定二二条六項〔乙三〕、また右時間数については当事者間に争いがない)で除したものとなり(労基法施行規則一九条一項四号)、法内残業については、右時間給に法内残業時間数を乗じた額、法外残業については、右時間給の三割増の金額に法外残業時間数を乗じた額が、被告が原告平に支払うべき金額となる。

2  原告平の時間外及び休日労働の労働時間については、別紙賃金一覧表一1記載の各年月日の原告主張の法内残業時間数及び法外残業時間数のうち、被告が時間数を争っている部分について判断する(当事者間に争いのない部分はこれを前提に算定する)。

平成三年四月一四日の日曜展覧会について、原告平は午前一〇時から午後五時まで昼食をとった一五分間を除いた六時間四五分が法外残業時間である旨を主張し、当日は原告平と谷津プロモーターしかいなかったので、休憩時間をとることができなかった旨を供述する。しかしながら、就業規則上は正午から午後一時までと午後三時から三時一五分までは休憩時間であり(就業規則三五条〔乙一〕)、当日の展覧会には他の三人のプロモーターも参加していたものと認められ(乙二七、三五、三六)、定められた休憩時間をとることができなかったものと認めるに足りる証拠はないから、同日の法外残業時間は、休憩時間一時間十五分を引いた五時間四五分であると認められる。

平成三年六月二十六日の本社会議については、通常の就労時間に引き続いて午後八時二〇分まで勤務したものと認められるところ(甲一の4、八、原告平)、午後五時一五分から六時三〇分まで(午後五時から五時一五分は休憩時間〔弁論の全趣旨〕)の一時間一五分が法内残業時間、午後六時三〇分から八時二〇分までの一時間五〇分が法外残業時間と認められる。ところで被告は、四級以上給与規定二二条二項二号(乙三)によると時間外勤務については六時三〇分から起算する旨の規定があるので、午後五時一五分から六時三〇分までの時間は時間外勤務でない旨を主張するところ、右規定は割増賃金が必要な法外残業時間についての規定であると認められ、就業規則三一条、三二条(乙一)で一日の所定労働時間が午前九時から午後五時まで(但し一時間一五分の休憩時間あり)の六時間四五分と定められているのであるから、午後五時一五分から午後六時三〇分までは法内残業時間であると認められ、被告の主張は理由がない(この点については以下に記載する各日時について全て同様である)。

平成三年九月二四日の展覧会搬入については、通常の就労時間に引き続いて翌日の午前一時まで勤務したものと認められるところ(甲一の6、四、八)、午後五時一五分から六時三〇分までの一時間一五分が法内残業時間、午後六時三〇分から午後一〇時までと午後一〇時三〇分から翌日午前一時までの六時間が法外残業時間と認められる。なお、午後一〇時から一〇時三〇分は就業規則三五条(乙一)により休憩時間と定められているところ、右時間について原告平が休憩をとることができなかったことを認めるに足りる証拠はないから、この点を労働時間とする原告の主張は理由がない(この点については以下に記載する各日時について全て同様である)。

平成三年九月二五日の展覧会については、通常の就労時間に引き続いて午後九時三〇分まで勤務したものと認められるところ(甲一の6、四、八)、午後五時一五分から六時三〇分までの一時間一五分が法内残業時間、午後六時三〇分から午後九時三〇分までの三時間が法外残業時間と認められる。

平成三年九月二六日の展覧会については、通常の就労時間に引き続いて午後八時三〇分まで勤務したものと認められるところ(甲一の6、四、八)、午後五時一五分から六時三〇分までの一時間一五分が法内残業時間、午後六時三〇分から午後八時三〇分までの二時間が法外残業時間と認められる。

平成三年九月二七日の展覧会については、通常の就労時間に引き続いて翌日午前零時まで勤務したものと認められるところ(甲一の6、四、八)、午後五時一五分から六時三〇分までの一時間一五分が法内残業時間、午後六時三〇分から午後一〇時までと午後一〇時三〇分から翌日午前零時までの五時間が法外残業時間と認められる。

平成四年五月一〇日の日曜展覧会について、休日振替と認められないことは前記判断(三3)のとおりであり(但し代休をとっているので、請求できる賃金は割増部分のみであることも前述のとおり)、午後一時から午後八時まで勤務したものと認められるところ(甲一の8、四、八、原告平)、午後三時から三時一五分及び午後五時から五時一五分の休憩時間三〇分を除いた六時間三〇分の法外残業時間が認められる。

平成四年七月二五日の土曜休日出勤については、始業時間から正午まで勤務したものと認められるところ(甲一の9、四、八、原告平、なお定められた休憩時間をとることができなかったものと認めるに足りる証拠はない)、三時間が法内残業時間と認められる。

平成四年九月二一日の展覧会搬入については、当日は休暇であったが、午後五時一五分(勤務開始時)ころから午後一一時三〇分まで勤務したものと認められるところ(甲一の10、四、八、)、午後五時一五分から六時三〇分までの一時間一五分が法内残業時間、午後六時三〇分から午後一〇時までと午後一〇時三〇分から午後一一時三〇分までの四時間三〇分が法外残業時間と認められる。

平成四年九月二二日の展覧会については、午前一〇時から午後八時まで勤務したものと認められるところ(甲一の10、四、八)、午後六時一五分から午後七時三〇分までの一時間一五分が法内残業時間(始業時間が一時間遅いので午後五時一五分から一時間繰り下げて計算)、午後七時三〇分から午後八時までの三〇分が法外残業時間と認められる。

平成四年九月二四日の展覧会搬出については、午前一〇時三〇分から午後一一時まで勤務したものと認められるところ(甲一の10、四、八、)、午後六時四五分から午後八時までの一時間一五分が法内残業時間(始業時間が一時間三〇分遅いので午後五時一五分から一時間三〇分繰り下げて計算)、午後八時から午後一〇時までと午後一〇時三〇分から午後一一時までの二時間三〇分が法外残業時間と認められる。

3  したがって、原告平は、別紙賃金一覧表三1記載の各年月日に、法内残業時間数については「所定内時間」欄記載のとおり、法外残業時間数については「所定外時間」欄記載のとおり、時間外又は休日労働を行ったものと認められる(時間数について前記六2で認定した各日時以外は当事者間に争いがない)。そして、右各年月日における一か月あたりの賃金額は「給与」欄記載のとおりであり(職務手当以外の部分の金額は当事者間に争いがなく、職務手当が二万円であることは乙六及び弁論の全趣旨により認められる)、これを一四八時間で除した時給額は「時給」欄記載のとおりである(但し少数点第四位以下を四捨五入)から、右各年月日の法内残業に対応する賃金額は「法内賃金」欄記載のとおりであり(「時給」欄記載金額に「所定内時間」欄記載の時間数を乗じて小数点以下を四捨五入したもの)、法外残業に対応する賃金額は「法外賃金」欄記載のとおりであり(「時給」欄記載金額に1.3を乗じ、さらに「所定外時間」欄記載の時間数を乗じて小数点以下を四捨五入したもの、但し平成四年五月一〇日分については前記判断〔三3〕のとおり割増部分である三割〔0.3〕のみを乗じて計算)、その合計は「合計」欄記載のとおりである。したがって、原告平の請求については、右合計の二三万七九五一円の範囲で理由がある。

七  原告薄の請求について

1  被告は、原告薄に対し、法内残業時間については、通常の労働時間の賃金を、法外残業時間については、右賃金の三割増(三級以下給与規定一九条三項〔乙二〕の割増賃金を支払う義務があるところ、右時間給を検討する。

右時間給計算の基礎となる一か月の原告薄の給与額について、年令給、勤続手当及び地域手当がこれに含まれることについては当事者間に争いがないが、被告はこれに歩合給が含まれない旨主張するので判断する。三級以下給与規定一九条五項〔乙二〕は、時間給の計算方法について、歩合給を含める旨を規定していないものの、歩合給は、労基法三七条二項及び労基法施行規則二一条で定められた割増賃金の基礎となる賃金から除外することが許されている賃金に含まれないことは明らかであるから、歩合給も右計算の基礎として加算すべきものである(法内残業及び法外残業のいずれも同様であることは前述のとおり)。ところで、原告薄は、時間給を計算するにあたり、一か月分の年令給、勤続手当、地域手当及び歩合給の合計額を一か月の所定労働時間である一四八時間(三級以下給与規定一九条五項〔乙二〕で除すべきであると第一次的に主張している。しかしながら、労基法施行規則一九条一項七号によれば、給与に月給部分(歩合給以外のもの、本件では年令給、勤続手当及び地域手当の合計)と歩合給部分の両方が存する場合には、月給部分を一か月の所定労働時間数で除した金額(同項五号、但し本件においては一四八時間〔三級以下給与規定一九条五項、この時間数については当事者間に争いなし)と歩合給部分を一か月(本件)の総労働時間数で除した金額(同項六号)との合計額を時間給として算出し、これに基づき計算すべきものであると認められる(原告薄が第二次的に主張している計算方法〔月給部分及び歩合給部分の合計額を総労働時間数で除するというもの〕も採用できない)。したがって、法内残業については、右時間給に法内残業時間数を乗じた額、法外残業については、右時間給の三割増の金額に法外残業時間数を乗じた額が、被告が原告薄に支払うべき金額となる。

2  原告薄の時間外及び休日労働の労働時間については、別紙賃金一覧表一2(又は賃金一覧表二1)記載の各年月日の法内残業時間数及び法外残業時間数のうち、被告が時間数を争っている部分について判断する(当事者間に争いのない部分はこれを前提に算定する。なお、平成三年六月二九日の土曜休日出勤に関しては、法内残業時間五時間、法外残業時間二時間の主張〔第二次的主張、別紙賃金一覧表二1〕について争いがないものと解されるので、右時間数を前提に算定し、平成三年七月一三日の土曜休日展覧会に関しては、法内残業時間六時間四五分、法外残業時間一時間の主張〔第一次的主張、別紙賃金一覧表一2〕について争いがないものと解されるので、右時間数を前提に算定する)。

平成三年七月一二日の展覧会については、午前九時三〇分から午後八時まで勤務したものと認められるところ(甲三の4、六、一〇)、午後五時四五分から午後七時までの一時間一五分が法内残業時間、午後七時から午後八時まの一時間が法外残業時間と認められる。(始業時間が三〇分遅いので午後五時一五分〔午後五時から五時一五分は休憩時間〕から三〇分終業時間を繰り下げて計算されるべきものである)。

平成四年三月二九日の日曜出勤特販支援について、労働時間と認められることは前記判断のとおりであり(前記三4)、午前一〇時から午後八時三〇分まで勤務したものと認められるところ(甲三の7、六、一〇)、正午から午後一時、午後三時から三時一五分及び午後五時から五時一五分の休憩時間一時間三〇分を除いた時間数のうち、少なくとも原告主張の六時間四五分の法外残業時間が認められる。

3  原告薄の各月の総労働時間数については、別紙総実労働時間認否書記載のとおり、平成三年七月以外は当事者間に争いがないので、平成三年七月について検討する。平成三年七月一二日の労働時間数は、前記判断のとおり(七2)、午前九時三〇分から午後八時までの一〇時間三〇分から休憩時間の一時間三〇分(正午から午後一時、三時から三時一五分、五時から五時一五分)を引いた九時間であるところ、原告はこれを九時間一五分で計算しているから(弁論の全趣旨)、平成三年七月の総労働時間数は、原告主張の二四三時間一八分から一五分を引いた二四三時間三分であると認められる(被告主張の時間数)。

4  したがって、原告薄は、別紙賃金一覧表三2記載の各年月日に、法内残業時間数については「所定内時間」欄記載のとおり、法外残業時間数については「所定外時間」欄記載のとおり、時間外又は休日労働を行ったものと認められる(前記七2で認定したもの以外は当事者間に争いがない)。そして、「月給」欄記載の金額が右各年月日における一か月の年令給、勤続手当及び地域手当の合計額であり(金額については当事者間に争いがない)、これを一四八時間で除したものが月給部分の時間給(但し少数点第四位以下を四捨五入)であり「時給A」欄記載のとおりである。また、「歩合給」欄記載の金額(金額は甲一〇及び弁論の全趣旨により認められる)を「月間総労働時間」欄記載の一か月の総労働時間数(前記七3で認定したもの以外は当事者間に争いがない)で除した金額が「時給B」欄記載の歩合給の時間給(但し小数点第四位以下を四捨五入)である。「時給C」欄は「時給A」欄と「時給B」欄の合計である。そして、右各年月日における法内残業に対応する賃金額は「法内賃金」欄記載のとおりであり(「時給C」欄記載金額に「所定内時間」欄記載の時間数を乗じて小数点以下を四捨五入したもの)、法外残業に対応する資金額は「法外賃金」欄記載のとおりであり(「時給C」欄記載金額に1.3を乗じ、さらに「所定外時間」欄記載の時間数を乗じて少数点以下を四捨五入したもの)、その合計は「合計」欄記載のとおりである。ところで、平成三年六月二九日分の「合計」欄記載の額は六四〇七円であるが、原告薄は右部分につき四九八五円のみを請求しているから(別紙賃金一覧表二1)、この部分を修正したものが「修正合計」欄記載の金額である。したがって、原告薄の請求については、右合計の五万七七〇一円の範囲で理由がある。

八  原告小峰の請求について

1  被告は、原告小峰に対し、法内残業時間については、通常の労働時間の賃金を、法外残業時間については、右賃金の三割増の割増賃金を支払う義務がある。そこで、右時間給を検討するに、前記七1で認定判断したとおり、一か月分の年令給、勤続手当及び地域手当の合計額を一四八時間で除したものと、一か月の歩合給を一か月の総労働時間数で除したものとの合計額が右時間給である。したがって、法内残業については、右時間給に法内残業時間数を乗じた額、法外残業については、右時間給の三割増の金額に法外残業時間数を乗じた額が、被告が原告小峰に支払うべき金額となる。

2  原告小峰の時間外及び休日労働の労働時間については、別紙賃金一覧表一3(又は賃金一覧表二2)記載の各年月日の法内残業時間数及び法外残業時間数のうち、被告が時間数を争っている部分について判断する(当事者間に争いのない部分はこれを前提に算定する)。

平成三年九月二五日の展覧会については、午前九時三〇分から午後七時二〇分まで勤務したものと認められるところ(甲二の3、五、九)、午後五時四五分から七時までの一時間一五分が法内残業時間、午後七時から午後七時二〇分までの二〇分が法外残業時間と認められる(始業時間が三〇分遅いので午後五時一五分〔午後五時から五時一五分は休憩時間〕から三〇分終業時間を繰り下げて計算されるべきものである)。

平成四年六月二〇日の土曜休日展覧会について、同月五日に休日振替がなされていることは前記判断のとおりであり(前記三5)、所定時間外の一時間一〇分のみが法外残業時間と認められる。

なお、平成四年一〇月一〇日のほるぷ会への参加については、労働時間と認められないことは前記判断(五)のとおりである。

3  原告小峰の各月の総労働時間数については、別紙総実労働時間認否書記載のとおり、平成三年六月、七月、平成四年六月については当事者間に争いがない。平成三年九月の総労働時間数に関しては、平成三年九月二五日の労働時間数が前記判断(八2)のとおり午前九時三〇分から午後七時二〇分までの九時間五〇分から休憩時間の一時間三〇分(正午から午後一時、三時から三時一五分、五時から五時一五分)を引いた八時間二〇分であるところ、原告がこれを八時間三五分で計算しているから(弁論の全趣旨)、原告主張の一一八時間五四分から一五分を引いた一一八時間三九分であると認められる(被告主張の時間数)。平成四年五月の総労働時間数については、原告主張の同月分の労働時間数のうち平成四年五月一二日分の六時間四五分が落ちていると認められるので(弁論の全趣旨)、これを加算して一三六時間三〇分と認められる(被告主張の時間数)。

4  したがって、原告小峰は、別紙賃金一覧表三3記載の各年月日に、法内残業時間数については「所定内時間」欄記載のとおり、法外残業時間数については「所定外時間」欄記載のとおり、時間外又は休日労働を行ったものと認められる(前記八2で認定したもの以外は当事者間に争いがない)。そして、「月給」欄記載の金額が右各年月日における一か月の年令給、勤続手当及び地域手当の合計額であり(金額については当事者間に争いがない)、これを一四八時間で除したものが月給部分の時間給(但し少数点第四位以下を四捨五入)であり「時給A」欄記載のとおりである。また、「歩合給」欄記載の金額(金額は甲九及び弁論の全趣旨により認められる)を「月間総労働時間」欄記載の一か月の総労働時間数(前記八3で認定したもの以外は当事者間に争いがない)で除した金額が「時給B」欄記載の歩合給の時間給(但し小数点第四位以下を四捨五入)である。「時給C」欄は「時給A」欄と「時給B」欄の合計である。そして、右各年月日における法内残業に対応する賃金額は「法内賃金」欄記載のとおりであり(「時給C」欄記載金額に「所定内時間」欄記載の時間数を乗じて小数点以下を四捨五入したもの)、法外残業に対応する賃金額は「法外賃金」欄記載のとおりであり(「時給C」欄記載金額に1.3を乗じ、さらに「所定外時間」欄記載の時間数を乗じて小数点以下を四捨五入したもの)、その合計は「合計」欄記載のとおりである。したがって、原告小峰の請求については、右合計の一二万五五八四円の範囲で理由がある。

九  以上のとおり、原告平の請求は二三万七九五一円及び遅延損害金、原告薄の請求は五万七七〇一円及び遅延損害金、原告小峰の請求は一二万五五八四円及び遅延損害金の範囲で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官片田信宏)

別紙賃金一覧表一1〜3、二1〜2<省略>

別紙総実労働時間認否書<省略>

別紙賃金一覧表三1〜3<省略>

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